LSIとしてのGPUを中心にしつつもそれを取り巻く幅広い技術について解説した本。コンピュータグラフィックスの歴史から最先端のGPUの応用まで広く紹介している。著者のHisa Ando氏のシリコンバレーでの実経験を背景とした詳細な内容も特徴となっている。
スプライトからポリゴンへの話やら物理計算的なプログラミングの話やらは想定していたけど、CRTからディスプレイコントローラの話やら、最先端の半導体製造プロセスの話やらまで絡めてくるとは思っていなかった。幅広く同時に深く技術の紹介を入れていくあたりは、さすが安定のHisa Ando氏という気がした。ここまで書ける人はなかなかいない、ライターとしては後藤氏を超えてると思う。
この手の本の想定する読者的には仕方なかったんだろうけど、もう少しパソコン以外のジャンルも充実させてほしかったか。組み込みやスマホの事情やら、最新のディスプレイアダプタ(HDMI,DisplayPortやら非同期フレームレートやら)の事情やらも解説があっても良かったかもしれない。デコーダやらエンコーダやらもかなぁ。CRTのアナログ伝送から話を始めてるんだし。ただ、そうしてしまうと本題の3DグラフィックスやGPGPUからは外れてしまう、というのもわからなくもない。
ただ、ちょっとNVIDIAを持ち上げすぎなところは気にはなった。まぁ確かに業界は今はCUDA一色に近いんだけど、NVIDIA以外が頑張ってるVulkanとかはもうちょっと登場しても良かった気はする。確かにNVIDIAが強いんだけど、もう少し長い目で見たら業界図が大きく変わってる可能性はあるんだし、標準化の話を存在感もって取り入れても良かったんじゃないかと思う。
と、批判的に書いてしまったけど、広く深く技術を解説した良本なのは間違いない。GPUのジャンルを詳しく知りたい人はぜひ読んでほしい。反面、最低限の知識がないと理解するのが難しい項目も多いので、初心者がいきなり読むのは注意が必要かもしれない。