2022年7月アーカイブ

「いちばんやさしいWeb3の教本」読んだ

Amazonアフィリンク

いろいろと話題になっている本だけど、目に止まってすぐに注文した結果、販売中止になる前に手に入れることができてよかった。何がまずいのかを自分なりに確認したかったので。

根本的な事実誤認については、すでに他の人も書いているのでもういいかとも思っていたけど、一箇所だけどうにも気になったので、先に書く。P173「分散データベースで使用される通信方式は、「クライアント・サーバ側」と呼ばれています」、分散データベースを通信方式でのみ述べるのは視野が狭すぎるし、そもそもピアツーピアな方式のものも多いしで、ブロックチェーンを持ち上げるためであれば何書いても許されるみたいな文章になってしまっている。

本書がなぜ批判されるかについて考えるに、SaaSのような形でしかコンピュータ技術に触れてこなかった人が、ブロックチェーンを持ち上げるためにWeb3というマーケット用語を用いてしまい、その肉付けをするためにブラウザだHTTPだTCP/IPだOSだを適当に持ち出してきて語ってしまっている点にあるかと思う。今となってはおおむねその定義や価値が定まっている用語を、まだふわふわしている分野の用語と同列に扱ってしまっては、そりゃ怒りたくもなるわなと。それこそ人生かけて分野を切り開いてきた人もそこらに普通にいるわけだし。

著者は1994年生まれの28歳と思われるが、ということは、物心ついた頃からインターネット...というかWebがふつうにあり、ブロードバンドが当たり前の中で成長し、スマホネイティブな大学時代にブロックチェーンに感銘を受けた、という道を歩んできたかと思う。つまり、ネットスケープがブラウザを作りWorld Wide Webをインターネットのキラーアプリケーションに作り上げたことは、日本の敗戦や高度経済成長やオイルショックやバブルと同様、すべて教科書の中の歴史でしかないのだろう。どの程度の昔から存在するものなのかに興味がなく、またおそらくSaaSのような形でしか技術に触れてないからCPUやOSやTCP/IPプロトコルスタックやについても興味がないのだろう。

あくまでビジネス本としてだけど、Chapter 3以降については類似の他の本に比べればそれなりにちゃんと書けているかと思う。現状のブロックチェーンを取り巻く動きを俯瞰するという目的ではそれほど悪くはないと思う。ただし、ブロックチェーンではない既存の技術についての説明で致命的にダメな箇所が複数あるため、技術者目線ではどうしても引っかかってしまう。

ことWeb3に関してはもはやただのバズワードだけど、この界隈を私なりに書くと、オープン・分散・匿名を信仰するブロックチェーン教であり、ブロックチェーンに裏付けされた暗号資産を使ってエコシステムを作ろうという信者の集まりである、という感じになる。イーサリアムを作ったヴィタリック・ブテリンはいわば教祖か?いやこの場合は予言者か?今のところは没落してはいないが、「円天」ですら5年以上も持ってしまうのが投資の世界なので、信用の裏付けが弱いものが転げ落ちるとあっという間だよなぁ、と心配してしまうわけです。

結局今回は、株式会社インプレスは販売中止&回収するに至ったわけだけど、世の中トンデモ本なんていくらでもあるわけで、この本がそこまでしないといけないものかと言われるとちょっと違うと思う。もちろん批判はあってしかるべきだし、事実誤認は誤字脱字と同様に訂正の形で公表してほしいけど、たかがビジネス書で述べた個人の持論を回収しないといけないとなると、ますます本がなくなっていってしまう。TwitterやFacebookやAmazonレビューやブログに書く個人の感想なんて、紙の本に比べりゃ全く後世に残らないよ。

技術屋と投資屋が仲良くする必要はないと思うけど、だからこそヘタに接点を作らないほうがお互いのためではないかと思うわけであります、はい。

このアーカイブについて

このページには、2022年7月に書かれたブログ記事が新しい順に公開されています。

前のアーカイブは2022年5月です。

次のアーカイブは2022年8月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

月別 アーカイブ

ウェブページ

Powered by Movable Type 7.9.0