「鉄道会社vs地方自治体 データが突き付ける存続限界」読んだ

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鉄道業界が社会や地域へ貢献できなくなっている具体例を示して問題点を指摘する本。地方赤字路線の廃止を主題にしつつも、鉄道存続そのもののみを議論しても意味がなく、交通を介し地域や自治体が自身を今後どのように運営するべきかを考えないといけない、と説いている点が特徴となる。

趣味のジャンルで活動する人が多い鉄道系YouTuberの分野で、社会問題の観点で語るYouTubeチャネルを運営する鐵坊主氏の著作。元旅行代理の経歴から鉄道を切り口に地域や自治体のあり方を考える動画をカナダから投稿する、というなかなか類のない活動を行っている。自治体や会議体の公表する資料を読み解きながらていねいに根拠を積み上げて議論する、という点も著者の強みとなっている。

鉄道事業は固定費が重く、また関東ですら今後人口減を迎えるため、それを踏まえ各社は長期計画を立てて運営していたが、それが新型コロナの登場で短期計画がすべて吹っ飛ぶほどの赤字になり経営が揺れ動いた。このため、各社により温度差はあるものの、どこも人口減を見据えた長期計画を前倒しで始めざるを得なくなった。これが、特にJRで、地方の赤字鉄道路線を維持するのはこれ以上はムリだとして廃線に向けて議論を加速したい動きになっている。方や地元自治体は、従来通りの廃線反対な声を上げるだけの例が未だに多い。議論を単に先延ばしにするだけではダメで、人口減の速度と社会情勢を踏まえた地域交通のあり方を真剣に考えなければいけない、と著者は説いている。

私も素人ながら地域や都市機能と交通とのあり方をおぼろげながら考えることがあったけど、著者のYouTubeチャネルを見始めてから、かなりマジメに考えるようになった。特に、ここ25年ほどは一貫して、(新幹線を除き)鉄道路線の整備よりも高速道路網の整備が優先され続けてきていて、それにより、高速バスがJRの特急に勝つ方面が増えた、という点をきちんと理解できていなかったと反省している。是非はともかく、JR分割民営化により、大都市部と新幹線以外はもう諦めて手を抜くんだという国交省の方針の成れの果てが今なんだと思い知らされた。これでは、未だに「国鉄」の認識と変わらない主張をするような自治体とは議論がかみ合わないわけで。

新聞や銀行と並び、もはや斜陽だと言われることもある鉄道業界の現状を知るうえでの良本。特に、鉄道を主人公に語るのではなくて、自治体や社会のあり方に踏み込んで考えている点がよい。逆に、現在の議論が停滞している状況を一変させるアイディアを語っているわけではない点には、現実的になかなかいい案があるわけではないとはいえ、仕方がないのかもしれない。

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このページは、らるるが2024年5月19日 23:25に書いたブログ記事です。

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