ホームネットワークに足りなかったもの

やたら刺激されたんで、トラックバック送りつつリンクはらせてもらいます。にとよんの技術日誌: iPod+iTunes+iMac に想う

参考リンク

上記のエントリを簡単にまとめると、ホームサーバとしてのiMac、外にあるコンテンツブラウザとしてのiTMS、外と内両方にあるコンテンツブラウザとしてのiTunes、パーソナルモバイルメディアプレーヤ(パーソナルモバイルクライアント)としてのiPod、これらを統括するAppleは次世代コンテンツ流通インフラを制しつつある、てな感じです。まぁ順番に見ていきましょう。

これらの中で一番弱いのがiMacです。根本はMacに対し圧倒的なシェアを持つWindowsというところにあります。AppleはWindow向けにもiTunesを提供するという英断をしており、これが将来DLNAサーバとして機能するようになるかもしれません。が、これとて、Windows MCEやViiv(East Fork)の前では決して優位に立てるとは限りません。内にあるコンテンツのサーバとしてのiMacが一番弱いところでしょう。ビデオ対応iPodの発表と一緒に新iMacも発表しアピールしているのは、こういうところを意識しているのでしょう。

ただ幸いなことに、DLNAガイドラインの枠組みではコンテンツサーバは分散しているのが前提になっています。つまり、5年くらい前から騒がれているホームサーバは家庭内コンテンツのすべてを集約するという思想のもと提案され続け失敗し続けてきていますが、DLNAではコンテンツは分散したサーバが個々に持っていると前提をおいています。

内にあるコンテンツは著作権保護する必要がないため、内にあるコンテンツを保持するサーバはDRMやDTCP-IPを意識する必要がなく、サーバがクライアントのためにリアルタイムトランスコーディングする必要がないです。つまり、内にあるコンテンツのサーバはPCほどのCPUパワーが必要にはなりません。結果、DVRやコンポあたりでも内にあるコンテンツを分散保持していられるはずです。

外にあるコンテンツは著作権保護する必要があります。ホームネットワークで共有するためにはDRMやDTCP-IPを乗り越える必要があります。DTCP-IPの枠組みを考えると、クライアントのためにリアルタイムトランスコーディングする必要があり、結果CPUパワーを持ったPCが有利となります。外にあるコンテンツを保持するサーバは、CPUパワーが豊富であり決済機能を持っていることが求められます。

ViivやWindows MCEは結局、この外にあるコンテンツを保持するサーバの地位を争っていることになります。次世代コンテンツ流通インフラを考えると、そこまで大きなウェイトを占める地位ではないでしょう。・・・とか書いてみたものの、やっぱある程度重要な地位に思えてきた(ぉ) HD DVD/Blu-rayプレーヤは強力なCPUパワー(+GPUパワー:CGやJavaが絡む)が必要だし、デジタルテレビ放送の録画は著作権保護を意識せざるを得ないだろうし(コピーワンスは見直し協議中)。で、なんだかんだで、内のコンテンツより外のコンテンツの方が割合多いだろうし・・・そのためのiTunes+iTMSか?

なんか、書き出したら止まらないぞ(ぉ) まだまだ書きたいことのうち半分も書いていないぞ(ぉ)

外にあるコンテンツブラウザとしてのiTMSの地位は揺るぎないものになってきました。各社メーカがP2Pの違法コピーに頭を悩ませているコンテンツホルダーの顔色をうかがい二の足を踏んでいるうちに、AppleはiPodとiTMSを完全に広めきってしまいました。Appleのうまかったところは既存のMP3などを制限なしにiPodに転送できるようにした点でしょう。ユーザにiPodを買ってもらうための敷居を下げました。ただもちろんそれだけではなく、大量の音楽を徹底的に限界まで安く提供するiTMSも用意しました。買ってきたりレンタルしてきた音楽CDをMP3やAACに変換しアーティスト名と曲名を入れて管理するのは手間がかかることであり、iTMSならそれらがすでに処理されたファイルが簡単に手に入ります。近くの音楽店へそもそも置いているのかどうかすらわからない曲を求め永遠とさまようのは時間のムダであり、iTMSなら簡単に検索できます。しかも、どこの店にも売ってないような古い昔の曲もおいていることが多いです。iTMSは使い勝手の面を相当考えて作っている、と指摘する人も多いです(私は使ってないので何ともいえないんですが)。

iTMSは儲かっていないのは有名な話です。オンライン販売で儲けようとしているコンテンツプロバイダ(≠コンテンツホルダ)は、儲けなど考えていないiTMSには価格では勝てません。AppleはiTMSで音楽を売って儲けようとはしておらず、iPodを売ることで儲けようとしています。まぁそのせいで私的録音録画補償金制度が勃発しているわけですが。

で、上記で音楽だったところが今回動画になりました。Apple自身は以前から、そして今回も、iPodが動画対応したことをあまり積極的にアピールしないようにしています。いぜん音楽が大事だと言い続けています。ただ、iTMSで動画配信まで始まるとなると、皆はiPodが動画に対応したと騒ぎ立てます。ちょっと文化人を気取った人は、音楽と動画は利用スタイルの異なるコンテンツで動画対応は大事でない・音楽が大事だ、とAppleの話を真に受けます。しかし真実は、上記で音楽だったところは「デジタルコンテンツ」だったんですよ。電子書庫サービスにいつ参入するかもしれません、ゲーム配信だってあり得ます。私の頭が固いんでこれ以上出てこないんですが、「デジタルコンテンツ」なら何でもやりかねないことでしょう。一時期「iPod photo」とかいってましたが「iPod」に統一されました、今回の動画対応版も「iPod video」とは名付けられていません(勝手にそう呼んでいる人はいますが)。iPodはデジタルコンテンツのメディアプレーヤであり、決して音楽や動画だけに絞っているわけじゃないんです。この路線が成功すれば、iTMSは外にあるコンテンツのポータルサイトとなることでしょう。

iTunesとは何かを考えると実は難しいんです。ちょこっと調べてみると、「音楽プレーヤーソフト」「音楽管理再生ソフト」あたりが主流ですね。Appleのページには「No.1ミュージックストアを楽しめるデジタルジュークボックス」と書かれています。デジタルジュークボックスという言葉は、今回動画対応したことを意識しているんでしょう。iTunesは、音楽プレーヤだけではなく、音楽管理ソフトだけでもなく、iTMSへの窓口のソフトです。

さて、音楽は「デジタルコンテンツ」に置き換えられます。iTunesは、iTMSで販売されるデジタルコンテンツへアクセスするためのソフトです。まぁちょっと高機能で、デジタルコンテンツをそのまま再生したりiPodに転送したりできます。ここまでなら普通ですが、iTunesはデジタルコンテンツを管理できます。

私はコンテンツ管理ソフトが嫌いです。よく「スキャナで取り込んだ画像を管理するソフト」「デジカメで撮影した写真を管理するソフト」「CDからエンコードした音楽を管理するソフト」「OCRで文字にした文章を管理するソフト」なんてありますが、あのたぐいのものは大嫌いです。そんな私が使っているのは結局Windowsのエクスプローラです。エクスプローラはファイラでしたが、最近はそうでもなく、ムダにプレビュー機能を統合してくれたりしています。つまり、あのたぐいのものを嫌っていながら、使っていたファイラはあのたぐいのものへと向かってたんですよ。

話を戻しましょう。従来のコンテンツ管理ソフトがエクスプローラやiTunesと異なっている点は、ネットワーク対応です。従来のコンテンツ管理ソフトは自分(ソフトの動いているPC)で作り管理しているコンテンツしか再生できませんでした。エクスプローラやiTunesは、ネットワーク対応することにより、他の機器に存在するコンテンツをも再生できます。管理はちょっと微妙ですが検索くらいならできます。このようなソフトを、コンテンツ管理ソフトとまでは呼びきれないので、コンテンツブラウザと呼びましょう。

エクスプローラは、LANやイントラネットを対象にしたコンテンツブラウザでした。いわば内にあるコンテンツのためのブラウザです。iTunesはiTMSのためのソフトです。いわば外にあるコンテンツのためのブラウザです。しかしiTunesはネットワーク共有機能を持っています。これまではネットワーク共有されるのは音楽でしたが、音楽は「デジタルコンテンツ」なので、iTunesはデジタルコンテンツをネットワーク共有できます。つまり、内にあるコンテンツのためのブラウザにもなり得ます。

話がちょっとそれます、DLNAがらみの話でもあります。上のような感じでコンテンツブラウザは整備されつつあるのに、実は検索が非常に弱いままです。Windows(エクスプローラ)の検索機能が弱いのはよく指摘される点ですが、エクスプローラは内にあるコンテンツのブラウザであるため、結果内にあるコンテンツの検索機能が非常に弱いままとなっております。デスクトップ検索ソフトがはやっていたのは1年ほど前ですが、その流れのままイントラネット検索(ホームネットワーク検索)ソフトにまでいってほしかったですね。デスクトップ検索ソフトは自分のPCにあるコンテンツしか検索できません、内にあるコンテンツも検索できるようにしてほしいです。このへんはWinFS頼みだったんですが。というわけで、Appleの次世代コンテンツインフラのためにWinFS開発をがんばってください>MS

さてiPodです。これまでは、iTunesやiTMSはiPodのために用意したものであるという説明を聞き続けてきました。これに対し、上記の説明により、iTunesやiTMSがiPodのため(=iPodの付属品)にすぎないわけがなく、もっと重要な役割を担うことは理解していただけたかと思います。しかしここもAppleのうまかったところ。iTunesやiTMSはiPodのためのものと言い続けてきたのにはわけがあります。iTunesやiTMSをがんばって作っても決して儲からないのです。iTunesやiTMSは次世代コンテンツ流通インフラに不可欠ではありますが、そこから儲けを出そうとしなかったのです。ただの音楽プレーヤや管理ソフトに金出そうと思う人は少ないでしょう、オンライン販売はできるだけ安いところで買いたいでしょう。どれだけ次世代コンテンツ流通インフラに不可欠なものであろうとも、一般ユーザにしてみればただの音楽プレーヤや管理ソフトにすぎないのです。シェアを取るためには安く提供する必要があります、儲けを考えないくらいに。そこで目をつけたのがiPodです。iTunesやiTMSはiPodのためとウソをついて、その間に壮大な次世代コンテンツ流通インフラを構築しようとしているんですよ。

もちろんそのためにはiPodが飛ぶように売れてもらわないと困ります。iPodが飛ぶように売れるようにするためAppleがどんな戦略をしてきたのかというテーマで語らなければいけないところですが、このテーマは実はこれまでにおそらくたくさんの人々に語られてきた話だと思うんで、ここではあえてさけておきます。「実は知らないだけなんだろ?」とか脅迫じみたコメントは容赦なく削除いたします(ぉ) 事実なので反論できないだけです(ぉ)

iPodの背中が見えてきた!  ソニー「ウォークマン」の逆襲」とか笑わせてくれますね。当時朝日新聞でも「iPod vs ウォークマン」とかいう笑わせる記事を見かけました。ソニーは負けました。正確に言うなら、デジタルポータブルオーディオプレーヤ市場におけるブランド争いに負けました。iPodブランドは絶大です。今からがんばったんじゃもう間に合いません。たとえば、「Gigabeatが動画対応!」では誰も見向きもしてくれません。「iPodが動画対応!」ならほっといても一般人が布教してくれます。「Gigabeatッテナニ?」が通常の人の反応です。今からiPod対抗のHDDウォークマンでは視野が狭すぎます。iPod+iTunes+iTMSの次世代コンテンツインフラを意識して切り崩しにかからないと。(と書いてみたものの、Gigabeatってまだ動画対応してなかったのかよ)

そんなiPodの目指している方向は何なんでしょうか。音楽・動画などと来れば、当然ながらPDA的な地位が思い浮かびます。モバイル情報端末としてのPDAのコンセプトは非常に共感できるんですが、いかんせん誰も買いませんでした。近年PDAに取って代わろうな勢いなのがケータイです。ケータイが通話やメールの端末だと思っている人はすでに遅れていて、ケータイは実は音楽・動画・ゲームのための課金プラットフォームです。むろん、PDA的な軸を見据える人もまだいるわけですが、スケジューラやフルブラウザやアドレス帳やPDFビューアを喜んでいるのはコアな人だけでしょうね。おサイフケータイは・・・びみょー、まだよくわからん、向いてる方向は電子決済か?

iPodとPDA(or PDA的なケータイ)との違いは、パーソナルであるかどうかだと思ってます。音楽聴いてる途中で電話が鳴ったりしない、ゲームしてる途中でメールが入ってきたりしない、それがiPodのようなものに求められている機能です。・・・というようなことをどっかの有名な人がBlogで書いてたはずなんだけど、探しても見つからない・・・ケータイにカメラ機能がついたのは、ケータイがパーソナルな端末であることの象徴だと思います

ただし、ケータイがiPodに対し弱いのは、ケータイがキャリアの縛りを受ける点です。キャリアはコンテンツを囲っています。端末がどれだけ高機能化しようとも、コンテンツを持っていないメーカはキャリアの言いなりです。キャリアは以前ケータイは通話とメールの端末であると言い続けているため、iPodのようにパーソナルな端末にはなりきれないでしょう。そういう意味では、PSPやNDSの方がiPodに近いかもしれません。

また、別のケータイが弱い点としては、端末とキャリアのネットワークで閉じてしまっている点でしょう。最近でこそSDカードやUSB接続により内にあるコンテンツを共有できるようになってきましたが、以前はそれすらままなりませんでした。外にあるコンテンツはキャリアが囲っています。キャリアは自社インフラ越しでしか外にあるコンテンツの配信を認めません。こっちもパケット定額制導入によりましにはなりましたが、以前はいわゆるパケ死直結というユーザに優しくなさすぎるプラットフォームでした。これでも先進的なデジタルコンテンツ流通インフラだったんですよ。

そんなわけで、次世代コンテンツ流通インフラを制しつつあるAppleということで話をしてきました。そんなAppleにも弱みがあります。

まずDLNAガイドラインに賛同していないこと。AppleのDRM(FairPlay)をオープンにしていないことにも起因するんだと思いますが、iPod+iTunes+iTMSの自社製品で閉じようとしています。この路線は商売的に危険でしょう。自社以外にも解放するなら、そろそろDLNA賛同だとか表明してほしいところではあります。

次、オンライン販売の利益が薄いこと。上の自社で閉じていることとも関係しますが、最終的に超広く超薄くもうける路線に行きたいんでしょう。問題は、そこまで多くのユーザを抱えられるかどうかです。

最後、iPodにはPCが不可欠であること。これまた自社で閉じていることに関係しますが、iPodにコンテンツを転送しようと思うとiTunesが不可欠です。iTunesはPC(Macも含む)が不可欠です。ただ、この点は利用スタイルにも影響するのでそう簡単には解決できないでしょうね。iPodにEthernetコネクタ(or無線LAN)がついてiPod単体でiTMSにアクセスできるとして、果たしてそれは便利で使いやすいんでしょうか。ケータイは端末単体で通信できるのでこの点で圧倒的に有利です。ただ、ケータイの狭い画面でしか見られない映画なんて好き好んで買う人は少ないでしょうけどね。

さてさて、長々と語ってしまいましたが、最後に、Appleが次世代コンテンツ流通インフラを完成させるための手順について見てみましょう。

まずiTMSの強化があげられます。音楽や動画にとどまらないデジタルコンテンツ全般を網羅する最強のコンテンツポータルに仕上げる必要があるでしょう。

次はiMac(or iTunes)の強化。ホームネットワークまで視野に入れるならiPodやiTunesというプレーヤだけでは少なすぎます。テレビ・HD DVD(Blu-ray)プレーヤといったクライアントにデジタルコンテンツを届けるためのiMac(or iTunes)が必要です。

その次がiTunesの強化。外にあるコンテンツブラウザとして成長してきましたが、ホームネットワークを考えると内にあるコンテンツを見る機能の強化が求められます。NASに蓄えられた孫の写真を手軽に見たい老人の要望には応えるべきでしょう。

最後にiPodの強化。次のデジタルコンテンツが何であるかにもよりますが、たとえばテキストビューアの強化であったりフルブラウザ搭載であったりゲームのためのMIDP対応(Java対応)であったりするでしょう。

以下はタイトル文に合わせるための蛇足。

ここまでを考えると、これまでに考えられてきたホームネットワーク構想に足りなかったものは、コンテンツブラウザとパーソナルモバイルメディアプレーヤです。

DLNAガイドラインの貧弱さにもよるんでしょうが、まずコンテンツブラウザが弱すぎます。DiXiMでコンテンツがどのマシンにあるのかを意識させないインターフェースが実装され評価されたりしてますがそんなの序の口、iTunesのように外にあるコンテンツもシームレスに探せる必要があるでしょう。内か外かを意識させなくてもいいかも。外にしかないなら、買ってホームサーバにDRM保護つきで保存しDTCP-IPでそのままコンテンツブラウザ上で再生できればうれしいでしょうね。むろん、iTMSのように密着したオンラインストアが必須ですが。

で、パーソナルモバイルメディアプレーヤの存在です。現在でも音楽・動画を再生できたり電子書庫を転送できたりする端末はありますが、転送のための敷居が高すぎます。普通のユーザは、AACとかMP3とかWMAとかMPEG2とかMPEG4とか3GPPとかmovとかJPEGとかPNGとかXMDFとかEBKとか意識したいわけがないです。Ethernet端子がついてDTCP-IPで転送?家にいないときはどうするの?USBごしにストリームだけでなくコピーもできないとダメですね。著作権保護問題があるので難しいところでしょうが、iTunes+iPodという閉じた組み合わせだからこそできるわけです。

このブログ記事について

このページは、らるるが2005年10月16日 07:04に書いたブログ記事です。

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